1. 少年少女飛行倶楽部
「日常の謎」を描いたミステリーで定評のある加納さんですが、本作は珍しくミステリー要素なし。
あとがきでも「底抜けに明るい、青春物語が書きたくなりました」とあるように、中学生の爽やかな青春譚という雰囲気です。
そんな本書に対する感想としては、全体的に軽すぎるかなという印象。
変わり者の集まった部活である「飛行クラブ」の活動を描いた物語なのですが、登場人物が意味もなく非現実的で、いかにも「作り物」感があります。
物語の核心となる様々な問題の解決方法も軽々しく、どこで心を動かされればよいのだろうかと思ってしまいました。
2. あらすじ
中学一年生になった海月(みづき)が幼馴染の樹絵里(じゅえり)に誘われるがまま入部することになったのは「飛行クラブ」という奇妙な部活。
二人以外の部員は部長の斎藤神(さいとう じん)先輩と野球部と兼部の中村海星(なかむら かいせい)先輩だけ。
その活動も「(飛行機やヘリコプターを使わず、パラシュートなどの「落下」を除いた手段で)飛行すること」を活動内容として掲げているが、実際には何もしていない。
そう、「飛行クラブ」は部活強制の学校で孤高を貫く神先輩が、他の部活に入りたくないために立ち上げただけの部活だった。
四人では部活としての存続もままならないため、とりあえず部員集めから始める海月たち。
集まってくる部員は曲者ばかりだが、それぞれ事情を抱えている。
活動記録のアリバイ作りのために行ったトランポリン体験や、学校行事で仕方なく参加した職業体験。
その中から徐々に見えてくる、部員の個性と内に秘めた気持ち。
それぞれの想いを乗せて、飛行クラブは無事「飛行」することができるのか......。
3. 感想
優柔不断で冷めている海月。
中村先輩への恋と海月との親友関係への依存が強すぎる樹絵里。
足に障害のある姉を「助けるため」に親が生んだ子である神先輩。
怪我で野球を諦めなければならない中村先輩。
そして、「球児」という名前をつけられ親からの期待を背負いながらも野球が下手な球児君。
他の登場人物たちも含め、それぞれが「ベタ」ではあるけれども物語の中心となる「悩み」「問題」としては妥当な設定を与えられています。
これらが上手く深堀りされれば面白かったのでしょうが、全てがやけにあっさりと解決してしまって拍子抜けが続きます。
加えて、「飛ぶ」という目標や行動がそういった要素とうまく結びついておらず、なんとなく飛べばいいよね、という雰囲気で物語が進んでいってしまうのが実に不可解。
「飛行」すること自体もそれほど困難でないどころか、偶然と幸運で成し遂げられてしまいます。
主人公たちの熱意や工夫があるといえばあるのですが、それほど大きくもないですし、物語の構成や登場人物の設定と上手く結びついていなくて、小説として面白くしようとする姿勢に欠けているといわざるを得ません。
4. 結論
何を伝えたかったのか、どう面白がらせたかったのか、それが曖昧な作品でした。
要素があまりに散漫で、なんとなく小説としての体を成しているだけという印象です。
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